教科書を起点とした授業づくり ―NEW HORIZONから広がる発信活動―
授業実践・研究
# Book 1 Unit 7
# 単元末活動
# ICT活用
関西大学 外国語学部 常勤外国語講師
田淵 香奈子
はじめに
教科書で語彙や文法、表現を学び、本文の内容を理解することは、英語学習の大切な第一歩です。しかし、単元が終わると同時に学習も終わってしまうのは、少しもったいないと感じています。教科書で学んだ内容を、実際に伝えたり発信したりする活動へと発展させることで、生徒は「学ぶ英語」から「伝える英語」へと一歩踏み出すことができます。

そのために、私はまず教科書の内容を自分ごと(Personalize)として捉え直すことを大切にしています。「あなたならどう思う?」「あなたの地域ではどうだろう?」「あなたなら何を紹介したい?」といった問いを加えることで、生徒は教科書の内容を自分の経験や考えと結び付け、自分の言葉で伝える準備を始めます。
次に、英語が苦手な生徒も安心して発信できるよう、段階的な支援(Scaffolding)を行います。ペアでの対話練習に加え、動画撮影、ICT機器も必要に応じて活用し、教師やクラスメイトからのフィードバックなどを取り入れることで、生徒は少しずつ自信をつけながら表現を磨いていきます。
十分に準備ができたら、本物の相手(Real Audience)へ発信します。発表の相手は教師だけではありません。ALTや他学年の生徒、留学生、保護者、地域の方々など、「伝える相手」がいることで、生徒は「伝わる英語」を意識するようになります。
発表後は、相手からのコメントや質問、自分の動画を見返す活動、表現の見直しなどを通して振り返り(Reflection)を行います。そして、そこで得た気付きや改善点を新たな題材に生かし、次の発信活動につなぐことで、学びは一回限りで終わらず、教科書を越えて広がっていきます。
このように、「教科書で学ぶ → 自分ごとにする → 支援を受けながら練習する → 本物の相手に伝える → 振り返り、新たな発信へつなげる」という学習サイクルを取り入れることで、教科書で学んだ英語は教室の中だけでなく、実社会へとつながる学びへと発展していきます。本稿では、NEW HORIZON Book 1 Unit 7を例に紹介します。
実践例:NEW HORIZON Book 1 Unit7 An Online Tour of the U.K.
教科書から「地域の魅力発信プロジェクト」へ
―Unit 7 An Online Tour of the U.K. を起点とした授業づくり―

STEP 1 教科書で学ぶ
Unit 7では、オンラインツアーを通してイギリスの文化や名所について学びます。本文の内容を理解するとともに、現在進行形や「案内する」「紹介する」ための基本表現を確認します。

STEP 2 Personalize 教科書を自分ごとにする
教科書でオンラインツアーを体験した後、生徒に次のように問いかけます。
Now, you are a Japanese online tour guide. What place in Japan do you want to show [your ALT’s name]?
(あなたは日本のオンラインツアーガイドです。 ALTに紹介したい場所はどこですか。)

この問いによって、生徒は教科書の世界から、自分たちの生活へと視点を移し、自分ごとにします。
グループごとに話し合いながら、紹介する場所を一つ決めます。学校や神社、公園、商店街、地域のお祭りなど、普段見慣れている場所でも、「海外の人に紹介する」という視点で考えることで、新たな魅力に気付き、自分の言葉で伝えたいという意欲が高まります。
場所が決まったら、次のような観点で内容を整理します。
どこを紹介するのか
なぜその場所を選んだのか
どんな魅力があるのか
どんな体験ができるのか

STEP 3 Scaffolding 伝える準備をする
紹介したい内容が決まったら、グループでオンラインツアー動画を制作します。

まずはGIGA端末を活用して写真や短い動画を撮影します。現地で撮影できない場合は、学校で撮った写真や自治体の観光サイト、地図アプリケーションやストリートビューなどを活用することもお勧めします。
次に、Unit 7で学んだ「案内する表現」に加えて、これまでに学んだ表現も活用しながら紹介原稿を作成します。
We are visiting ....
How interesting!
You can see ....
など、教科書の表現を土台に、自分たちの言葉を加えていきます。
原稿ができたら、すぐに撮影するのではなく、段階的に練習を行います。
グループでリハーサルする
タブレットで試し撮りをする
グループで動画を見返し、改善する
動画の完成度よりも、「撮って、見返して、改善する」過程を大切にします。

STEP 4 Real Audience 相手に届ける
動画が完成したら、「オンラインツアー作品発表会」を設定し、本物の相手に届ける機会をつくります。発表相手は海外の学校である必要はありません。まずは学校の中の身近な相手から始めるだけでも、生徒は「誰かに伝える」ことを意識しながら英語を使うことができます。
例えば、次のような場が考えられます。
ALTとの授業
他クラスや他学年との合同発表会
文化祭
学校公開日や授業参観
留学生との交流会
新入生歓迎会、文化祭、卒業イベントなどの学校行事
姉妹校や海外の学校とのオンライン交流
発表後には、観客から質問や感想をもらいます。「この場所へ行ってみたくなりました。」「写真が綺麗でとても分かりやすかったです。」といったコメントは、生徒にとって大きな励みになります。
さらに、Googleフォームなどを活用してアンケートを実施すると、多くのフィードバックを集めることができます。例えば、
一番行ってみたいと思った場所はどこですか。
発表の良かったところを教えてください。
などの質問を設定すると、作品への反応を可視化できます。

「評価されるための発表」ではなく、「伝えるための発表」を目標にすると、生徒の表現や話し方にも変化が見られるようになります。

STEP 5 Reflection 振り返り、さらに伝わる表現へ
発表後は、観客からの質問やコメントをもとに振り返りを行います。「もっとゆっくり話した方が伝わりやすかった。」「写真を増やすと、さらに分かりやすくなると思った。」など、自分たちの作品を客観的に見直します。また、必要に応じてAIを活用して英語表現をブラッシュアップすることもできます。「伝えて終わり」にするのではなく、「次に伝えるときにはどうすればもっと伝わるか」を考え、改善を重ねることが大切です。こうした振り返りと改善を繰り返すことで、学習は一度きりの発表で終わらず、次のコミュニケーションへとつながっていきます。その積み重ねが、生徒に「英語は伝えるための道具である」という実感をもたらし、実際のコミュニケーションで英語を活用する力を育んでいきます。
NEW HORIZONで広がる動画作品のアイデア
ここでは、Book 1のUnit 7を取り扱いましたが、NEW HORIZONの題材は、さまざまな動画作品へ発展できます。
教科書の題材 | 参考となる題材例 | 発展例(動画作品) |
|---|---|---|
地域・観光 | Book 1 Unit 4・5・7 | オンラインツアー動画を作成して、地域のおすすめスポットを紹介する。 |
日本文化 | Book 1 Unit 1・6 | 日本文化紹介動画を作成して、食文化や伝統文化、地域の行事を紹介する。 |
環境・SDGs | Book 1 Unit 8 | SDGs啓発動画を作成して、学校や地域でできる取組を提案する。 |
人物・生き方 | Book 1 Unit 1・2・5 | インタビュー・ドキュメンタリー動画を作成して、尊敬する人物や地域で活躍する人を紹介する。 |
学校生活 | Book 1 Unit 0・2・3・7・10 | 学校紹介動画を作成して、学校生活や学校行事を紹介する。 |
未来・夢・職業 | Book 2 Unit 3 | キャリア紹介動画を作成して、将来の夢や地域の仕事を紹介する。 |
世界の文化・国際理解 | Book 1 Unit 4・8 | 比較文化動画を作成して、日本と海外の文化を比較・紹介する。 |
思い出・学校行事 | Book 1 Unit 0・9・10 | 思い出動画を作成して、一年間の成長や学校生活を振り返る。 |
動画が完成したら、教師だけが視聴するのではなく、「本物の相手」に届ける機会を設けることで、生徒の目的意識や意欲を高めるきっかけになります。発表相手は、必ずしも海外の学校である必要はありません。まずは身近な相手から始めることで、無理なく実践できます。「誰かに伝える」という目的をもって英語を使う経験も、生徒の学びを深めることにつながります。すべての単元で取り組む必要はありません。学期に一度など、まずは一つの題材から始めることで、生徒の学びは教室の中にとどまらず、実社会へと広がっていきます。
発表の場では、評価されることだけでなく、相手に伝えることを意識することも大切です。動画という形にすることで、生徒は何度も撮り直しながら表現を磨くことができ、発表後には視聴者から感想や質問、アドバイスを受けることもできます。こうした双方向のやり取りを通して、生徒は英語を「学ぶもの」から「伝えるための道具」として実感できるようになるでしょう。
おわりに
教科書には、生徒が社会とつながるきっかけとなる題材が数多くあります。英語が本物の相手に届いたとき、生徒は「英語を勉強した」のではなく、「英語で伝えることができた」という実感を得られるはずです。教科書は、生徒が英語を使って人とつながり、実社会へ踏み出すための出発点にもなります。まずはALTへの紹介や隣のクラスへの発表など、小さな実践から始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、生徒にとって英語を「伝えるための道具」として実感する機会につながるはずです。