NEW HORIZONの内容を発展させるCLIL志向の授業の一例
授業実践・研究
# Book 3 Unit 5
# CLIL
福岡教育大学 講師
白井 龍馬
CLILとは何か
CLILとは、Content and Language Integrated Learningの略で、内容言語統合型学習と訳されます。「4つのC」から始まる視点で学習目標が構成されます(4Cs Framework; 図1参照)。

【図1】CLILの4Cs Framework
Contentは、英語以外の教科内容です。数学や理科の知識を英語で扱うことになります。右上のCognitionは、教えた知識をもとに生徒に考えさせることを指します。このContentとCognitionの関係は、学習指導要領における「知識・技能」と「思考・判断・表現」の関係と同じですね。「知識を教える」「教えたことをもとに考えさせる」という授業を英語でやってしまおう、というのがCLIL授業の特徴の1つです。
CLILには決まった形がないとされることが多いですが、それだと少し考えづらいので、下記の4Ps framework (Ikeda, 2022; 図2参照) をもとに授業の流れを考えてみましょう。

【図2】4Ps framework
これは、教える他教科の知識を1つだけ決め、それをもとに生徒に考えさせる授業をするときの活動の流れを考えるのに有用なフレームワークです。Preparationは、いわゆるウォームアップ活動です。Presentationは、1つだけ教える他教科の知識を生徒に示す活動です。Processingは、その知識の理解度を高めるために、具体例と関連づける活動などを指します。Productionは、知識をもとに考えたことをプレゼンテーションなどのまとまった成果物で表現させる活動です。
NEW HORIZON Book 3 Unit 5 の実践事例
この授業の流れを使って、NEW HORIZON Book 3 Unit 5 の本文を扱ったあとに、どんなCLIL志向の授業ができるかを表1にまとめました。Contentとして設定したのは、Five Practices of Leadershipという概念です。Five Practices of Leadershipは、「自ら範を示すこと」「ヴィジョンを共有すること」などで構成される5つの訓練可能なリーダーシップのスキルを指します (Kouzes & Posner, 1987)。
Five Practices of Leadershipは中学校や高校で扱われる教科の知識ではない(一部の大学の授業で触れられることはあるようですが)ので、この授業のアイディアは厳密にはCLILと呼べないかもしれません。しかし、4Cs Frameworkに基づいた授業設計であり、教えた知識をもとに考えさせる活動をしていることから、「CLIL志向の授業」と呼んでおくことにします。
【表1】 4Ps Frameworkに基づく活動の流れ
Preparation (準備活動) | Presentation (知識提示) | Processing (知識理解) | Production (産出) |
|---|---|---|---|
良いリーダーといえば誰を思い浮かべるか生徒に尋ねる。その人物がなぜ良いリーダーと言えるのかを答えてもらう。この活動を通して「良いリーダーとはどのようなものか」を皆で考える。 | 良いリーダーがすることとして、*Five Practices of Leadershipを提示する。適宜日本語で補足しながら、教師が平易な英語とイラストで1つずつ説明する。 | 歴史上の人物を数名 (Gandhi含む) 挙げ、その人物らがFive Practices of Leadershipを実践していたと思うかをグループで協議。数グループを指名し、考えたことを発表してもらう。 | 自分が良いリーダーだと思う人物を1人挙げ、なぜその人が良いリーダーだと思うかをFive Practices of Leadershipの観点からプレゼンする。クラスメイトなど身近な人物でも可。 |
*Lead by example (自ら範を示す) / Show the vision (ヴィジョンを示す) / Try new and difficult things (新しく、かつ困難なことに挑戦する) / Empower people to act (人が自分から行動できるようにする) / Appreciate people (人に感謝する) (Kouzes & Posner, 1987をもとに比較的平易な英語で言い換えたもの)
表1を見て、「中学校で実施するのは難しいのでは」と思われた方もいるかもしれません。たしかにこのまま実践すると、生徒のつまずきが想定されますね。それを事前に予期して、適切なサポートを準備しておきましょう。例えば、以下の表2のようなサポートがありえます。CLILでは、このような学習上のサポートを非常に重視し、内容面(この場合であればリーダーシップについて)と言語面の両方から生徒の学習を支援します。
【表2】 4Ps Frameworkごとに必要となる学習上のサポートの例
Preparation | Presentation | Processing | Production | |
|---|---|---|---|---|
想定されるつまずき | 「なぜ良いリーダーと言えるのか」を即興の英語で言うことが難しい | Five Practices of Leadershipの英語が難しい (例: empowerなど) | Five Practices of Leadershipを実践していたと思うかを考えても、英語で考えを言うことができない。 | プレゼンの原稿がAI翻訳頼みになってしまう。 |
サポートの例 | 「キーワードだけでも良いよ」と伝え、単語だけで答えてもらう (例: kind)。 | 基本的には英語で説明したいが、状況に応じて日本語での補足説明も行う。 | 意見を言うための*sentence frameを与える。分析の理由も即興の英語で言わせたいが、難しければ日本語でも可とする。 | プレゼンを行うための**speech frameを与える。また、speech frameを使ったスピーチの例を教師が示す。 |
* I think he[she] .... / I don’t think he[she] .... / I’m not sure he[she] .... など。「...」にはFive Practices of Leadershipが入る。
**speech frameの例:Hello, everyone. Today, I’d like to introduce a good leader to you all. His[Her] name is [名前]. I think he[she] is a good leader for three reasons. First, he[she] [Five Practices of Leadershipから1つ選ぶ]. [具体的な行動やエピソードを入れる]. Second, he[she] [Five Practices of Leadershipから1つ選ぶ]. [具体的な行動やエピソードを入れる]. Finally, he[she] [Five Practices of Leadershipから1つ選ぶ]. [具体的な行動やエピソードを入れる]. For these three reasons, I believe [名前] is a great leader, and we can learn a lot from him[her]. Thank you for listening.
ほかにも、processingの段階で生徒が考えやすくなるよう、表形式のワークシートを作っておくこと等も有効なサポートとなるでしょう。Gandhiについて考えるときは、教科書の英文を再読しながら思考するよう促すことも有効でしょう。
ここまで色々なサポートを用意してまで、リーダーシップを深堀りする授業を行うことにどんな意味があるでしょうか。言語学習上のメリットで言うと、empowerなどの難しい語彙を繰り返し使うことで、その意味をしっかりと理解できるようになるでしょう。また、speech frameの提示により、まとまった分量のスピーチを行う一例を学ぶことができます。processingの段階で教科書の再読をするのであれば、一度教えた言語表現を復習する機会になります。内容学習の観点で言うと、中学校3年生という学齢でリーダーシップを深く扱うことに意義があると言えるでしょう。この授業の中で中学上級学年生としての自分のリーダーシップを振り返る生徒もいれば、最後の活動でクラスメイトや部活のメンバーのリーダーシップを称賛する生徒も出てくるでしょう。このような教育的な効果を想定して授業を計画することも、CLIL授業の重要な視点であると言えます (Ikeda, 2021)。教室環境によっては、リーダーシップを発揮できる人だけが偉いのではなく、フォロワーシップという概念もあるということを授業の最後に教師が日本語で補足しておくのも良いかもしれません。
最後に、評価についての話です。CLILでは、内容学習と言語学習の評価を一体的に行っていきます。その例として、次のような評価活動が挙げられるでしょう。
【表3】 本授業の評価活動の一例
形式 | 評価活動 | 目的 |
|---|---|---|
ペーパーテスト | Five Practices of Leadershipと具体的な行動を関連づける問題を出題する。<例> Tom is the captain of our basketball team. I think Tom is a very good leader because he *[ ]. For example, Tom always sets a clear goal for our team. Thanks to that goal, we can practice basketball very hard. | <内容面>Five Practices of Leadershipを理解しているか評価する。<言語面>Five Practices of Leadershipと具体例の関連づけを読み取れるかを評価する。 |
パフォーマンステスト | 最後のプレゼンテーションの活動を、Five Practices of Leadershipと具体的な行動の関連づけという観点から評価する。 | <内容面>Five Practices of Leadershipを理解しているか評価する。<言語面>Five Practices of Leadershipと具体例の関連づけを英語で表現できるかを評価する。 |
*[ ]にはFive Practices of Leadershipのいずれかを答えさせる。Five Practices of Leadershipをそれぞれ選択肢で示しておいて正解を選ばせる形式にしてもよい。
4Ps Frameworkを活用したCLIL志向の授業を行うと、生徒が今まで習ってきた英語表現を活用して、すごく深いことや興味深いことを発言してくれる瞬間があります。私にとっては、それがCLILの醍醐味です。このような授業ばかりやっていては網羅すべき文法事項や語彙表現の定着が疎かになってしまう危険性もありますが、たまにはこのような活動を通して、今まで習ってきた英語で深く考えて活動してみる時間をとってみるのも良いのではないでしょうか。私はよく「CLILの時間は練習試合」と生徒に説明していました。4Ps Frameworkを活用したCLIL志向の授業、ぜひお試し下さい。